診療科の特色
痛みは、身体に生じた異常事態を知らせる警告反応として大切な役割を持っています。しかし、痛みの原因が明らかとなったあと、痛みは私たちにとって有益な存在から不必要な、さらには有害な存在へと変わっていきます。警告の役割を終えた痛みが長く存在すると、より強い痛みや新しい痛みが現れてくる、いわゆる痛みの悪循環が生じます。
このような状態に陥った時はもちろんのこと、陥りそうな時には、身体的、精神的な苦痛を適切に緩和することがとても重要になります。
ペインクリニックでは、神経ブロック治療や薬物療法、認知行動療法的アプローチ、運動療法などの様々な方法を用いて、有害な痛みを緩和し痛みの過敏化を防ぎ患者さんのQOLの維持、向上を目指して治療を行っています。
実績
日本ペインクリニック学会指定研修施設認定を受けています。
2023年(1月1日~12月7日現在) 初診患者数 118名 延べ通院患者数 1809名 脊髄刺激療法トライアル1名 脊髄刺激装置植え込み0名
特徴的な検査・主な手術
痛みに対する介入、治療方法には薬物療法、神経ブロック治療以外に手術などの外科的治療、理学療法、心理療法などがあります。当科でも多くの通院患者さんは何らかの薬物療法を受けています。患者さんの状態や特徴に応じて神経ブロック治療や外科的な治療を考慮する場合があります。
また慢性化した難治症例では認知行動療法などの心理療法的アプローチが有効である患者さんもおられます。
最近のトピックとして片頭痛の治療薬として片頭痛の発生そのものを抑制する抗体医薬であるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)製剤が2021年から国内で使用できるようになりました。CGRPは片頭痛の痛みの直接の原因とされているタンパク質です。片頭痛の原理は、未だに解明されたとは言えないものの、現在最も信頼されている「三叉神経血管説」という仮説があります。それによると、片頭痛が始まるときは、三叉神経という神経から、このCGRPが脳の表面の膜(硬膜)に向かって放出されます。CGRPを受け取った膜は、炎症と血管拡張をおこし、その結果、脳が、痛み、嘔気、眠気を感じるとされています。CGRP製剤は放出されたCGRPの働きを抑えることで頭痛の発症そのものを抑制するという画期的な新薬です。使用方法は1ヵ月に1回程度皮下に自己注射をする製剤になり、これまで既存の片頭痛予防薬を使用して頭痛がコントロール出来ない方が適応になります。
- 片頭痛患者さんは下記のような日常生活の支障が存在することが分かっています。
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- 仕事に集中できない
- 仕事を休んでしまう
- 家族との時間を犠牲にしている
- 次に来る発作が不安になる
- 周りの人の理解が得られない
- 人との約束を遠ざけてしまう
- CGRP製剤の使用により期待される作用
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- 頭痛の回数が減少する
- 急性期治療薬(一般的な鎮痛剤やトリプタン)の効き目が良くなる
- 日常生活の支障が軽減する
頭痛で悩まされる人は、日本でも数百万人います。また、頭痛があることで、仕事ができなくなると、経済的な損失も大きいです。頭痛をきちんと予防し、作業効率を高め、豊かで健康的な人生を送るために、頭痛の治療はとても大切です。CGRP製剤の使用には一定の適用条件がありますが片頭痛でお悩みの患者さんは当科へご相談ください。
当科で行っている外科的治療 難治性慢性の四肢、体幹の痛みに対する脊髄刺激療法
難治性慢性の四肢、体幹の痛みに対して当科で行っている治療に脊髄刺激療法があります。脊髄刺激療法とは脊髄に微弱な電流を流すことにより慢性の痛みを和らげる治療方法のことをいいます。脊髄刺激療法はあくまで痛みを和らげる治療であり、痛みの原因を取り除く根治療法ではありません。
脊髄刺激療法は
- 薬では十分な効果が得られず、日常生活にも支障をきたす慢性的な痛みに対する治療方法の一つです。
- 海外では40年前から実施されている療法です。
- 世界で35万人以上、日本では6000人以上が脊髄刺激療法による治療を受けています。
- 国内では健康保険の適用が認められています。
- 硬膜外ブロックと同等のリスクがあります。
- 神経障害性疼痛(神経が直接損傷したり障害を受けたりした際に起こる痛み)、虚血による痛みには有効ですが、侵害受容性疼痛(骨折、打撲、炎症などによる急性期の痛み)には効果がありません。
- 脊髄刺激療法の効果がある痛み
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- 脊椎、脊髄疾患による腰下肢痛
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊椎手術後に再燃、悪化した痛み
- 腰椎多数回手術
- 癒着性くも膜炎
- 末梢血管障害による痛み
- 閉塞性動脈硬化症
- バージャー病
- レイノー病、レイノー症候群
- 複合性局所疼痛症候群(きっかけとなる原因に釣り合わない激しい持続痛)
- その他の神経障害性疼痛
- 脳卒中後の肩手症候群
- 帯状疱疹後神経痛
- 開胸術後疼痛
- 外傷、放射線治療による腕神経叢損傷
- 糖尿病性ニューロパチー
- 不完全脊髄損傷による痛み
- 断端痛、幻肢痛
- 多発性硬化症による痛み
- 脊椎、脊髄疾患による腰下肢痛
脊髄刺激療法の行い方は図1のように円筒型の脊髄刺激電極リードを穿刺針を用いて脊髄の後面に接するように挿入します。その後、脊髄刺激電極に電気刺激を送る刺激装置を刺激電極リードに接続して臀部や腹部皮下に埋め込みます。
この手術は多くの場合局所麻酔で行うことができます。
(図1)
この治療の特徴としては、脊髄刺激療法のシステムを完全に体内に埋め込む前に全例試験刺激というトライアルを行います。これは、入院して行う治療で経皮的に刺激電極を体内に挿入して、1週間程度体外の刺激装置から脊髄へ試験刺激を行います。脊髄刺激による鎮痛効果があってもなくても一旦刺激電極リードを抜去してもとの状態で退院します。
退院後、ご家族とも相談していただきトライアルの鎮痛効果を参考に実際に体内への脊髄刺激システムの埋め込みを行うかどうかを決めていただきます(図2)。
(図2)
外来診療日
医師紹介
本田 康子 (ほんだ やすこ)
ペインクリニック内科部長
麻酔科主幹
- 医学部卒業年
- H18年
- 資格
- 麻酔科専門医(日本麻酔科学会)
小児麻酔認定医(日本小児麻酔学会) - 学会
- 日本麻酔科学会
日本小児麻酔学会
日本ペインクリニック学会
松浦 康荘 (まつうら こうそう)
医療安全管理室部長
麻酔科部長、臨床研修センター主幹
- 医学部卒業年
- H11年
- 専門領域
- 麻酔
- 資格
- 麻酔科専門医(日本麻酔科学会)
ペインクリニック専門医(日本ペインクリニック学会) - 学会
- 日本麻酔科学会
日本ペインクリニック学会
- モットー
- 丁寧に診療します。
千田 彬夫 (せんだ あきお)
麻酔科医師
ペインクリニック内科医師
- 医学部卒業年
- H27年
- 専門領域
- 麻酔科
- 資格
- 麻酔科専門医
- 学会
- 日本麻酔科学会
日本ペインクリニック学会
- モットー
- 丁寧な診療を心掛けてまりいります。
津田 翔 (つだ わたる)
麻酔科医師、ペインクリニック内科医師
- 医学部卒業年
- H25年
- 資格
- 麻酔科専門医(日本麻酔科学会)
- 学会
- 日本麻酔科学会