縦隔腫瘍(胸腺腫,胸腺がん,嚢胞性腫瘍,神経性腫瘍など)

胸部外科領域で肺がんと並んで頻度の高い疾患として縦隔腫瘍があります。「縦隔」とは臓器の名称ではなく、右と左の胸腔を「縦に隔てている」胸部中央の場所あるいは部位の名前です。縦隔には心臓、大血管を始め気管、食道、脊椎(脊髄)など重要な臓器が狭い空間に目白押しです。その他に胸腺や神経、リンパ組織などが存在します。縦隔腫瘍はこれら諸臓器や構造物の組織を母地として発生する腫瘍、ということになります。悪性腫瘍、良性腫瘍及びその中間型の性格を持った腫瘍などがありますが、良性腫瘍であっても手術を行うべき場合が多いことが特徴です。その理由として、前述のように「狭い空間」であるため良性腫瘍であっても周囲の臓器を圧迫する場合があること、悪性と良性の中間型の性格を持った腫瘍が多いこと、また解剖学的な理由から手術以外の方法で安全に組織診断検査が行いにくい場合には手術で検査と治療を一回で完結する方が安全で確実なことなどが挙げられます。
 縦隔腫瘍をその組織別にあげると、胸腺腫、神経性腫瘍、嚢胞性腫瘍、リンパ腫、そして奇形腫などの胚細胞性腫瘍といった順になります。これらは各種画像検査からある程度類推することは可能でも、手術前に組織として確定することはしばしば困難です。従って先述したように現在では手術による摘出で確定診断と治療を一度に行うことが最も合理的と考えられています。さて、その手術においては従来の開胸手術から胸腔鏡手術にだんだんと移行してきています。胸郭の変形などの後遺症や合併症、術後の疼痛などの観点から胸腔鏡手術が従来の開胸手術と比べてより有利で安全であることがわかってきました。これも以前に比べて手術が勧められるように変化して来た理由です。当科で行なっている手術の多くは胸骨や肋骨を切断せずに行う独自の「胸骨吊り上げ法」を用いた胸腔鏡手術です。従来の開胸手術では術後2ヶ月ほどは運動が禁止されていたのですが、当院での方法で手術する場合は2週間で運動に復帰できるようになり患者さんの生活に恩恵を与えています。