手掌多汗症

手掌多汗症とは手のひらに「異常に汗をかく」状態のことをいいます。私たちの血圧や心拍数、発汗などは自律神経によって制御を受けています。いわゆるテンションを上げる「交感神経」とα波が出てリラックスさせる「副交感神経」がうまくバランスを保って生活しています。交感神経が優位なときは文字通り「手に汗握る」状態になります。しかし、これが過度となると試験の際に鉛筆が滑ったり、スポーツの試合でラケットが滑ったり、また運転中にハンドルが滑ったり、といった生活に大きな支障が生じる状況が出現します。
 このような「日常生活に重大な支障」が生じると手術治療の適応となります。手術方法は胸部の交感神経で「手のひらの汗」を制御している神経節、通常は3番と4番の交換神経節を完全に電気的に焼灼切断あるいは切除することを行います。手術の効果は手術終了直後から手のひらが乾燥してくることで確認できます。
この手術は胸腔鏡を用いて行い、比較的安全に短時間でできること、そして何より効果が確実であったために、一時期全国で広く行なわれました。しかしながら、手の発汗を止めたことによる「代償性発汗」という合併症も発生する事がわかりました。「代償性発汗」とは手のひらに汗をかかなくなった代わりに、背中、お尻、足のうらなどに多量の汗をかく症状です。しばしば発汗の程度が非常に多い場合があり、今度は代償性発汗のために日常生活に重大な支障をきたす患者さんも複数報告されました。重大な問題点として代償性発汗は「後戻りできない」ことがあります。それゆえにこの手術は、近年はあまり行われなくなってきました。
 そこで当院ではこの手術において、あえて交感神経節をすべて焼灼切断せずに、神経繊維を「部分的に神経をわずかに残すような」焼灼を行うという改良を行いました。胸腔鏡で神経節を慎重に確認しながら、おおよそ80%の神経繊維を焼灼し、20%ほどをそのまま温存するように手術を実施しております。その結果、手のひらが乾きすぎることを防ぎ丁度よい湿り気を保ちつつも、かつ代償性発汗を大幅に低下させられることが可能となりました。手術を受けた患者さんからはとても高い満足度をいただいています。ところがこの方法にも若干の欠点があります。それは、数年〜十数年でその効果が消失し元に戻る可能性がある、ということです。しかしながら、当院の手術方法は繰り返し施行可能であることと、十数年を経過すると患者さんご自身も「それほど過度に緊張しない年齢」に達するため、再手術自体を必要としないことも予想されます。患者さんの人生をトータルで考えると、後戻りできない手術よりこの方法がよりよいものであると考えています。